乳がんについて

日本人では、「12人に1人」のかたが「乳がん」と診断されています。

乳がんとは

乳房に網の目状に張り巡らされている乳腺に悪性の腫瘍ができる状態をいいます。食生活の変化、女性の社会進出による晩婚化、出産経験がないことなどさまざまな理由により、日本でも年々増加しています。多くの場合は、検診による早期発見で高い完治率が期待できます。

乳がんの種類は実に18種類に及び、大きく「非浸潤がん(ひしんじゅんがん)」と「浸潤がん(しんじゅんがん)とに分類できます。

乳がんは、基本的にはそのほとんどが乳管(母乳が通る乳房のなかのくだ)の中にできます。

乳管の中に留まる乳がんを「非浸潤がん」といいます。リンパ節や肝臓、肺などにあまり影響はきたさないといわれていますが、がんは広範囲に進むため、治療が必要です。

一方、乳管の外に出てしまったり、乳管の外でできてしまったりする乳がんを「浸潤がん」といいます。治療せずにおくと、いずれがんは全身に広がりますから、身体に大きな影響を与えるようになりますから、積極的な治療が必要です。

乳がんの病気分類

非浸潤性乳がんは乳管内をはっていくタイプでどちらかといえば転移しづらいため、いわゆる病期(ステージ)分類には入りません。一方、浸潤性乳がんは、腫瘍の大きさとリンパ節の転移によって、病期(ステージ)を表します。

臨床・病理 乳癌取り扱い規約による進行度

 

臨床病期分類のイメージ

 

乳がんができるメカニズム

乳房は、皮膚、脂肪などの皮下組織と、乳汁を作るための小葉という分泌腺や作られた乳汁を乳頭に運ぶための乳管の乳腺組織で構成されています。この乳腺組織の単位を腺房といい、乳頭からブドウの形のように16、17本が放射状に並んでいます。これらの乳腺組織は人や年齢などによって多い少ないが異なります。

閉経するまでは、月経1週間前より乳腺は徐々に張ってきて、触るとざらざらとした感じになったり、乳頭や乳輪の感覚が敏感になったりすることがあります。

これらはホルモンが原因で起こる症状で、人によってさまざまな形で現れます。その課程で体にとって必要ない細胞が勝手に分裂増殖することでできたしこりを腫瘤と呼び、場合によっては、腫瘍に形を変えていきます。

腫瘍には良性と悪性が存在します。良性の場合は転移しませんが、悪性の場合は、乳房以外の場所に転移していきます。正常な細胞ががんになる原因はまだ解明できていませんが、さまざまな因子が関わることで、細胞遺伝子に異常が生じ、それが積み重なったとき「がん」になるといわれています。

がんの発生や成長を助長する因子

がんの発生や成長には、さまざまな因子が関わっています。これらを明らかにすることは、治療にも大きな影響を与えます。

乳がんの発生に最も大きく依存しているのは、エストロゲンやプロゲステロンなどのホルモンの存在です。乳がんの60〜70%はホルモン依存するといわれているため、さまざまなホルモン治療法が開発されています。

もうひとつ、乳がんの発生・成長には、専門用語で「HER2受容体」という増殖因子が関わっています。ガン細胞の周囲にこの受容体があると、悪い細胞同士が結合して、倍々に大きくなっていきます。

他にも、閉経後の高脂肪食、肥満など、生活習慣に関わる環境因子もがんの成長に影響することがわかってきました。

 乳がんの原因 

乳がんのリスク要因

乳がんのリスク要因を相対危険度で表すと下記のようになります。

  • 乳がんになったことがある ⇒ 相対危険度は6.0
  • 母親、姉妹、娘が乳がん  ⇒  相対危険度は2.8
  • 初潮が12歳未満の未婚女性 ⇒ 相対危険度は1.9
  • 30歳以上の未婚の女性 ⇒ 相対危険度は3.0
  • 月経が55歳以上になってもある ⇒ 相対危険度は1.6
  • 閉経前の肥満 ⇒ 相対危険度は1.4

また最近、アンジェリーナ・ジョリーなどで話題になった「遺伝性乳がん」のリスクは、下記のとおりです。

  1. 若い年齢(40才未満)で発症しやすい
  2. 両側乳房に出来やすい
  3. 卵巣癌が発症しやすい
  4. 家族に男性乳がんがいる
  5. 家族に乳がんまたは卵巣癌の患者がいる

なお、「遺伝性乳がん」につきましては、検査が可能となりました。

乳がんの原因

乳がんの原因の詳しいことはまだ解明されていませんが、現状では次のようなことが考えられます。

女性ホルモン

女性ホルモンの一種であるエストロゲンは、乳管の発達を促進する働きがあり、乳がんの発生に大きく関係しています。

特に、「初潮が早い」「閉経が遅い」「出産経験がない」「授乳経験がない」「高齢出産」などのかたは、ホルモンの影響を受けやすいため、がんを発症する確率が高いとされています。

高タンパク、高脂肪、塩分の摂り過ぎや、肥満などの生活習慣も、ホルモンの分泌を促進することから、乳がんの危険因子となります。

食生活

欧米の食文化が定着したことにより、私たち日本人の食生活は肉や乳製品が占める割合が高くなっています。なかでも高脂肪の食事は乳がんの発生や進行を促す促進因子であることは解明されてきました。

最近では、動物性、植物性油に含まれるリノール酸が、乳がんの増殖に促進的に働くことが、ネズミの実験にて立証されました。

このリノール酸を抑制するといわれているのが魚介類の油に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)です。これらは、動脈硬化の抑制や血栓症の予防にも効果があることがわかっています。

かつて私たち日本人は、EPAやDHA(魚や海草)をたくさん食べていました。また、乳がんの抑制因子であるイソフラボンが豊富な味噌や豆腐などの食材を常食としてきました。しかし、戦後、食生活が欧米化されるのに伴い、体型や体質も変化することで、乳がん患者が増えていることは間違いありません。

現在、日本人の12人に1人といわれている乳がん患者が、ハワイの日系人の場合、実に6人に1人ということからも、食生活が少なからず乳がんに影響を与えていることは、よくわかります。

しかし、乳がんの発症した後に食生活を改善しても、乳がんは小さくはなりませんから、常日頃から、注意することが必要です。

乳がんの治療法

乳がんの治療を受ける前に

乳がんの治療は、がんの種類や進行度、患者さんの年齢や要望などに合わせたオーダーメイドが基本となります。

かつて乳がんは、順番に転移していくと考えられていたため、腫瘍の大きさや形に関係なく乳房と大胸筋、小胸筋、リンパ節を含めた外科手術が行われていました。しかし、筋肉をとらなくても生存率に差がないことがわかったため、筋肉はとらず、乳腺とリンパ節をとる手術が多くなりました。

その後、「リンパ節転移がある場合はとった方が再発はすくないが、10年生存率とは関係はない」という研究結果が発表されたことで、乳房温存術とリンパ節郭清を主体とした治療が始まり、現在では腫瘍に一番近いリンパ節に転移がなければリンパ節をとらないという、センチネルリンパ節の治療が主流となっています。

これは乳がん、転移が伴う「浸潤がん」が発症した場合は、すでに全身に小さな転移が存在する全身病であることを物語っています。しかし、先に述べたようにがん細胞が発症しても乳管や小葉にとどまる「非浸潤がん」は手術で完全に治ります。

また、リンパや静脈に浸潤するとがん細胞は全身に広まります。しかし、人間の体には免疫による抵抗力がありますから、がん細胞の増殖が止まったり、破壊されたりすることもあります。つまり、乳がんが発生した部位を手術により切除することは、転移の元を断つという意味では、手術が必要であることは間違いありません。

しかし、重要なのは手術でとることだけでなく術前術後の治療を行うことで、乳がんが治ることを忘れてはなりません。最近はサブタイプ別の治療法が確立されつつあり、予後因子や予測因子を測定して治療法を決定する等、治療方法はかなり進んできていますが、その多くはまだ保険扱いになっていないものもあります。

乳がんの治療方法

ホルモン療法・化学療法

乳がんの60〜70%はホルモンに依存していますから、最初に、組織検査によりホルモン治療が可能かどうかを見極めます。ホルモンに依存しているのであれば、ホルモンを抑えることにより増殖が防げます。ホルモンに依存していない場合は、化学療法を行うことになります。

分子標的治療

HER2テストにより、乳がんの成長を助長する細胞増殖因子があるかどうかを確認し、あった場合は分子標的薬を使用します。

外科手術

乳がんの種類や転移の場所、進行度合などを鑑みたうえで、乳房切除手術、温存手術などを行います。最近では、手術前に、5年後、10年後に乳がんの再発の可能性を探るため、K167と呼ばれる予防因子を調べることも増えています。

さまざまな検査をしたうえで、患者さんにベストな治療法が提供されます。

乳がんを早期発見するために

12人に1人といわれる日本の乳がん患者は、女性が罹患するがんでは第1位です。しかし、乳がんは早期発見による回避できるがんでもあります。

大事に至って悲劇を起こすことのないよう、乳がんを発見するための2つの方法をご紹介いたします。

自己検診

乳がんは、数少ない自己発見可能ながんです。定期的に自己検診し、異常を感じたらすぐに医療機関を受診することをお勧めします。

注意点

自分の乳腺は触れても、他人の乳腺を触ったことがないのが一般的ですから、異常かどうかはなかなか気づきづらいものです。人によっては乳腺が固かったり(乳腺症)、柔らかかったり、中に水が溜まっていたり(乳腺嚢胞)しますから、自己判断は非常に難しいといえます。また、年齢による違いや月経などの乳腺の変化により乳腺の状態は異なってくるため、異常がないと自己判断してしまったけれど、実際には乳がんだったというケースもあります。

まずは検査を受けた際に、正しい自己検診の方法を医師の診断を仰ぐことをお勧めします。

医療機関での検診

乳腺の検査設備を備えている機関に出向いて『乳房検診』を受ける方法です。

多くは、触診、超音波検査、マンモグラフィーがセットになっており、料金も医療機関によって異なります。受診を希望される場合は、「検査内容」「検査結果のお知らせ方法と時期」「異常があった場合の対応」などをできるだけ詳しく確認するとよいでしょう。一般的には、診療科目に「乳腺外科」がある医療機関をお勧めします。

さまざまな自治体で実施している「市(区)民検診」「会社の検診」などもあります。

「市(区)民検診」の場合は、年齢により検診の時期、内容が規定されています。
例えば、「30代未満」は触診のみ、「40代以上」はマンモグラフィーも入りますが、自治体によっては、「50代以上」は毎年、「40代」はそうではないといったケースもあるようです。ただし、「市(区)民検診」は、基本的に超音波検査は含まれません。

「会社の検診」は会社が提携している病院やクリニックと協議のうえ、検査内容を決定しているようです。すべての検査が網羅されていない場合もありますから、十分な事前確認が必要となります。

他にも、検査バスを巡回させているようなNPO法人もあるようです。